慶應通信! r.saitoの研究室

慶應義塾大学通信教育課程のブログです。皆さんの卒業を応援します。

エスノグラフィ(1)

 社会構築アプローチでは、エスノグラフィという手法が使われることがあります。「卒業論文」のカテゴリのところで説明した、聞き取り調査です。このエスノグラフィという手法を用いると、「何がどのように社会的に構築されてきたか」をより明らかにすることができるようになります。また、それと同時に、「これまで社会的に構築されてきたものに疑問符を投げかける」ことも可能になります。それが一体どういうことか、納棺師という職業を例に説明したいと思います。


 納棺師という仕事は、おそらくたいていの人が知っていると思います。映画『おくりびと』をきっかけに有名になりました。私は職業柄(僧)、この納棺師の方と関わることがあります。人が臨終を迎えてから家に運び込まれると、納棺までの間に「枕経」が読まれます。枕経はお経の名前ではなく、ご遺体を背にして唱えるお経です。人が戒名(真宗では法名)を得るためには、僧の下で修行する必要があります。しかし、一般の人にはそうした機会がありませんから、これが戒名(法名)を得る機会なのです。これが、仏となる準備なのです。ここでは私は導師となり、ご遺体を仏へと導く役割を担います。ちなみに、本来枕経は死の間際に唱えられるものですが、現代では(病院があるため)亡くなられたあとに唱えるのが一般的です。
 その後が、納棺師さんの出番です。ご遺体を納棺します。納棺師さんは、納棺だけではなく、遺体にかんしていろんな世話をします。一番多いのが消臭と防腐です。時に鼻がおかしくなりそうな臭いに直面することもあります。しかし、やりがいのある仕事だとおっしゃっていました。
 この仕事は、映画と実際とではやや異なります。どの程度異なるかは私はわかりませんが、映画はやはり美化されているようです。美化どころか、ご自身とはまったく違っているところもあるみたいです。

 プロのチェロ奏者として東京のオーケストラに職を得た小林大悟。しかし、ある日突然楽団が解散し、夢を諦め、妻の美香とともに田舎の山形県酒田市へ帰ることにする。
 就職先を探していた大悟は、新聞で「旅のお手伝い」と書かれたNKエージェントの求人広告を見つける。てっきり旅行代理店の求人と思い込み「高給保障」や「実労時間僅か」などの条件にも惹かれた大悟は面接へと向かう。面接した社長は履歴書もろくに見ず「うちでどっぷり働ける?」の質問だけで即「採用」と告げ、名刺まで作らせる。大悟はその業務内容が納棺(=NouKan)と知り困惑するが、強引な社長に押し切られる形で就職することになる。しかし妻には「冠婚葬祭関係」としか言えず、結婚式場に就職したものと勘違いされてしまう。
 出社早々、納棺の解説DVDの遺体役をさせられ散々な目に遭い、さらに最初の現場では孤独死後二週間経過した老女の遺体処理を任され、大悟は仕事の厳しさを知る。
 それでも少しずつ納棺師の仕事に充実感を見出し始めていた大悟であったが、噂で彼の仕事を知った幼馴染の銭湯の息子の山下からもっとましな仕事に就けと白い目で見られ、美香にも「そんな汚らわしい仕事は辞めて」と懇願される。大悟は態度を決めきれず、美香は実家に帰ってしまう。さらに、ある現場で不良学生を更生させようとした列席者が大悟を指差しつつ「この人みたいな仕事して一生償うのか?」と発言したのを聞いたことを機会に、ついに退職の意を社長に伝えようとするが、社長のこの仕事を始めたきっかけや独特の死生観を聞き思いとどまる。
 場数をこなしそろそろ一人前になった頃、突然美香が大悟の元に戻ってくる。妊娠を告げられ、再び納棺師を辞めるよう迫られた大悟に仕事の電話が入る。それは、一人で銭湯を切り盛りしていた山下の母、ツヤ子の納棺の依頼であった。山下とその妻子、そして自らの妻の前でツヤ子を納棺する大悟。その細やかで心のこもった仕事ぶりによって、彼は妻の理解も得、山下とも和解した。
 そんなある日、大悟の元に亡き母宛ての電報が届く。それは大悟が子供の時に家庭を捨て出て行った父、淑希の死を伝えるものであった。「今さら父親と言われても…」と当初は遺体の引き取りすら拒否しようとする大悟に、自らも帯広に息子を残して男に走った過去があることを告白した同僚の上村は「最後の姿を見てあげて」と説得する。美香の勧めもあり、社長に車を借りて遺体の安置場所に向かった大悟は、30年ぶりに対面した父親の納棺を自ら手掛ける。

 結構うろ覚えですが
・お父様も同じような仕事をしていたので、それを間接的に継いだような感じ(コネ?)。結婚する前からこの仕事にずっと就いていたので、奥さんの理解はもちろんあったみたいである。
・広末氏がものすごくこの仕事に反対していたのが残念だ。役だから仕方ないが。
・やりがいは大きい。本当に大きい。映画だから本来とは違うが、この仕事の認知を広めたもっくんに感謝したい。
・おそらく当人は『不良学生を更生させようとした列席者が大悟を指差しつつ「この人みたいな仕事して一生償うのか?」と発言したのを聞いたことを機会に、ついに退職の意を社長に伝えようとする』というシーンに衝撃を受けたのではないかと思われる。これはそんな不良がやるべき仕事ではない。また、償いのためにするという仕事でもない(憤怒)。
⇒この仕事に関しては、何より感謝の言葉を得る機会が多いため、大変だが(この仕事を避ける人は多いだろうが)周りの評価も高いものだと思い込んでいた。その点において映画は大きく違っていた。もし自分が転職でこの仕事に就いたならば、映画に共感できたかもしれない。
 また私は映画がどうだったか忘れてしまいましたが、宗派によって納棺の作法が異なります。実際に見ると映画との違いが浮き出てくると思います。


 実際に仕事をしている人に尋ねてみたり、実際その場に居てみると、全く想像と食い違っている場合があります。私も、これは聞きかじりのことですし、たった一人の意見ですから、それが全てに当てはまるというわけではないでしょう。映画と全く同じことを経験した納棺師さんもいるかもしれません。
 社会的に構築された職業観、もしくは○○観が本当に正しいのか、それを打破するために、メモとテレコを持って、いろんなところに出かけてみると面白いと思います。
 ちなみに私はこの映画を見ているとき寝ました。

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