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英文学史(1)

 英文学史は4単位。その代わり、レポートも二つ書かなければなりません。

ロマン主義とは何か、またその担い手たちはどういう意味でロマン主義的なのかをそれぞれ述べよ」

はじめに
 このレポートは、英国文学においてロマン主義がどのような風潮であるかを概述すると共に、そのロマン主義の意味と、それに属する作家たちがについて概説することを目的としたものである。そのためにまず第1章において、ロマン主義について簡単な説明を行った後、第2章において、ロマン主義を代表する作家であるブレイク(William Blake)やワーズワス(William Wordsworth)などの作品について説明を行いたい。

第1章 ロマン主義とは
ワーズワスとコウルリッジが共同で『叙情歌謡集』を出帆した1798年から30数年間をロマン主義またはロマン復興の時代と呼ぶ。ロマン主義が開花した18世紀末は、産業革命に伴い生活様式、生活感情が大きく変化した時代であった。このロマン主義は前の時代の古典主義に対する反動としてあらわれた。
 このロマン主義には、大きく分けて三つの特徴がある。その一つ目は、時間的空間的に遠いものに対する憧れである。中世趣味や異国情緒がその現れであり、そのことはエドムンド・スペンサーやジョン・ミルトンの詩風を復活させた詩人が多いことから伺える。また、当時の文明を排斥して、過去の回顧や未来への憧憬が好まれた。
 二つ目の特徴は、自然と超自然に対する驚異と熱愛である。自然は神秘化され超自然は自然のものと化し、ロマン主義の作家たちは、合理的に理解できるものよりも、感情や感性を重視している。そして彼らは前世紀の文明主義・物質主義に反対し、自然の状態・原始的な状態に価値を置いている。田園生活や農民の生活に趣味を持ち、また自然そのものに意味を受け取ろうとしたことである。形式化されたものを嫌い、無邪気と粗野な力を道徳に入れることを好んだ。動物や子供、田夫野人のように、エネルギーのあるものが道徳の力であるとされた。
 三つ目の特徴は、革命的精神である。ロマンティシズムは革命の子であるとされ、理想主義的態度を持って解放を叫び、ユートピアを模索した。以上がロマン主義の大まかな特徴である。

第2章 ロマン主義の作家たち
 ロマン主義を代表する詩人には、以下の者たちが存在する。ウィリアム・ブレイク、ウィリアム・ワーズワス、サミュエル・テイラー・コウルリッジ、ジョージ・ゴードン・バイロンパーシー・ビッシュ・シェリージョン・キーツである。ここでは以上の順に説明していきたい。

ブレイク
 ブレイクは1957年にロンドンで生まれた詩人である。彼の代表作に『無垢と経験の歌』があげられる。これは詩と挿絵の両方をブレイク自身が彫版して彩色を加えたものである。この『無垢と経験の歌』は、『無垢の歌』と『経験の歌』の二つからなるが、これは「人間の精神の二つの相反する状態を示」したものである。ここでは人間の持つ状態を『無垢の歌』では「子羊」、『経験の歌』では「虎」と形容している。この詩には「経験」を通過し高次元の「無垢」に達した状態を理想とするブレイクの思想が現れている。この作品は素朴かつ情熱的であり、そこからロマン主義的態度が読み取れる。

ワーズワス
 彼は原始主義的思想を持つ人物である。彼は多くの貧しい農民の生活から取材を行っているが、その理由はそうした人間には、人間としての根本的な情念が未だ残っていると彼が考えたためである。そのことから彼は詩から詩語(poetic diction)を追放して、田夫野人の言葉を用いるべきだと主張した。彼は子供の心、母性愛を神々しいものとした。そして自然を宗教化・道徳化し、その中に神の存在を認めた。そのことは彼と友人のコウルリッジの共作である『抒情歌謡集』(Lyrical Ballads 1798)に現れている。その中でワーズワスは「ティンタン寺院の詩」を著したが、これには上に述べたワーズワスの思想が顕れている。この視は1798年に5年ぶりにワイ河畔を再訪したものの感慨を歌ったもので、彼の自然との神秘的な交わりが表現され、『自然は決して自然を愛した者の心を裏切らなかった』と自然の恵みについて感謝している文を残している。

コウルリッジ
 コウルリッジの最大傑作は『老水夫行』である。老水夫の乗った船が赤道を通った後、嵐により難局近くまで押し流され、船に飛んできたアホウドリを射殺したために呪いを受けるが、月夜の海を泳ぐ海蛇の美しさに打たれて思わず祝福したとたんに呪いが解け始め、こうして老衰府は故国に帰るというストーリーである。この詩の特徴は、超自然的な神秘と、罪と罰、そして愛による贖罪の可能性を描き出しているところにある。その点でロマン主義であると言える。

バイロン
 バイロンの代表作に『チャイルド・ハロルドの遍歴』がある。この長詩に描かれている主人公は、バイロン自身をモデルとしている。これは、自ら亡命者となってあてどなくヨーロッパを漂白する青年の物語である。ハロルドは憂鬱で人間嫌い、かつ高慢で傷つきやすいといった性格を持っている。そうした行動性や情熱的恋愛を描いた彼の作品群はわかりやすい形でロマン派性を体現していた。また、『マンフレッド』において反社会性、反道徳的思想を示した。それは畏怖や嫌悪、憧憬といったものであるが、こうした彼の思想は「バイロニズム」と呼ばれている。彼は母国イギリスから追放され、イタリアに住んだ。そこで彼は背徳の恋を世間にアピールした後、ギリシア独立戦争で死亡している。

シェリ
 シェリーはバイロンと同じく貴族階級の出身であり、イギリス社会から追放されたという点で共通している。彼の代表作には『マブ女王』や『アラスター』がある。前者はウィリアム・ゴッドウィンの影響を受けて書いた長詩であり、彼の思想が現れている著作の一つである。後者は、主人公の私人は夢に出会った幻の少女を死ぬまで追い求める物語である。この作品には、シェリーのナルシズムが表れている。彼の作品には、ロマン主義特有の精神的かつ幻影的美の追求が見られる。彼は同じ境遇であったバイロンと交友があり、バイロンの死に際して『アドネイース』をささげている。

キーツ
 キーツはロマン派の主要な詩人の最年少であり、そして一番早く死んだ作家である。彼は上に述べた作家たちとは異なり庶民の出である。彼の作品の一つ『エンディミオン』はギリシア神話に基づく美しい物語詞である。若い羊飼いエンディミオンが、月の女神シンシアの象徴する理想美を追い求めるロマンティックな物語である。また、彼の最高の達成はオード群であると言われている。「ギリシアの壺オード」や「小夜鳴鳥(ナイチンゲール)に捧げるオード」、「秋に捧げるオード」などである。これらはいずれも不滅の絶唱である。形式美と指摘内容が厳しく整った調和が示されている。彼は最年少であるが、詩人としては最も成熟していたと言われている。

まとめ
 以上において、ロマン主義について述べた上で、その作家たちがいかなる意味でロマン主義的であるかを述べた。彼らの作品からは、自然を崇拝し、そのなかから人間本来の性質を見出そうとする姿勢をうかがい知ることができる。それが、彼らが「ロマン主義」であるといわれる所以である。以上がロマン主義についての概要である。

■参考文献
川崎寿彦『イギリス文学史』成美堂(1988)
船木満洲夫『英文学史佛教大学(1981)