慶應通信! r.saitoの研究室

慶應義塾大学通信教育課程のブログです。皆さんの卒業を応援します。

意識の変化について

 以前の大学で、プロレス研究会でジャッジマンをしていた仲のいい後輩がいました。お酒を飲みながら私はプロレスに関しては全く詳しくはないんですが、前回の西村修氏の記事を見て、何となく思ったことがあったので、書いてみます。
 歴史で扱う事柄として、史実のほかに、意識があります。一番わかりやすいのが、思想史(思想の歴史)です。20世紀半ばから後半にかけての思想は、かなり簡単に言うと、実存主義構造主義ポスト構造主義という感じで流れていきました。また、思想だけではなく、科学や芸術、スポーツに関しても思想史というものは存在します。スポーツに関しては、塾生新聞で西村さんがおっしゃったことに、スポーツの思想史が端的に現れています。
 プロレスの「プロ」というのは、本来は「プロフェッショナル」ではなく「プロモート」を意味しています。「プロモート」というのは、「促進する」という意味なんですが、他に「興行を開催する」という意味があります。つまり、プロレスはもともと興行性・娯楽性を意識したもので、旧来のレスリングよりもショーやエンタテイメントとしての要素を強く押し出しているところに特徴がありました。初期のプロレスは、サーカスと同じように巡行して行われました。試合は観客を魅せるために、プロモーターとレスラーの裏取引が行われていました。
 しかし、どんなスポーツも競技性というものが存在します。打ち合わせありきのプロレスは、選手の中に不満が溜まりがちです。誰が強くてチャンピオンなのかはっきりさせたい、という欲求が高まります。そこから、次第にプロレスの競技性が高まります。その競技性を表す言葉の一つに、「受けの美学」というものがあります。

受けの美学
 プロレスラーやプロレスファンの間には「受けの美学」という思想がある。これは「トップレスラーは、相手の技を耐えて相手を引き立たせ、その上で逆転して勝つ技術とパワーが無ければならない」という信念に基づいており、相手を精神的にも肉体的にも凌駕するべき、という考え方である。この考え方は、大相撲の「横綱相撲」と通じるものがあり、相手の攻めを受けて、「魅せて勝つ」ことこそが上位の相撲として捉えられていることと同様である。(ウィキペディアより抜粋)

 塾生新聞の記事から、おそらく西村氏は、この立場のレスラーだと思われます。多くのプロレスラーやプロレスファンが「受けの美学」を重視していることから、これが「本質的な」プロレスの姿であると多くの人に考えられています。

 「プロレス界では、『その時代に適したプロレス』が求められる。今は、パワーの時代。でも、プロレスの本質は、パワーの力強さはもちろん、精神の強さが一番だと思う。それを忘れてはだめと思うし、その大切さを観客に伝えなければと思う」
 パワーファイターの持つ力強さ、気迫、衝撃で観客を沸かせ、ショーとしての盛り上がりを重視する現代のプロレスの形に違和感を持った西村氏。プロレス本来の形を残したい、伝えたい一心で始めたのは、通信教育課程での心理学の勉強だった。(塾生新聞より抜粋)

 しかし、その後プロレスは大きく二極化します。その一つ目がUWFや総合格闘技のように、「受けの美学」を否定し、ショー的要素を以前のプロレスから削ぎ落としたものです。しかし、ウィキペディアでは、「受けの美学」を誤解している、と解釈されています。

プロレスラーはその考え方(=受けの美学)をリングの上で表現して観客を楽しませている。しかしその「受けの美学」が誤解され、「なぜあんな技をよけないのか?」といった批判があることも事実で、それが一般に「真剣勝負」として受け取られない一因にもなっている。こうした「受けの美学」を否定するレスラーも現れ、UWFのようなショー的要素を排除したプロレスが産まれたり、そこからさらに発展して総合格闘技戦に主戦場を移すプロレスラーも多くなっている。(ウィキペディアより抜粋)

 もう一つは、ハッスルや大阪プロレスのように、さらにエンタテイメント的要素を高めたものです。ハッスルではかつて和泉元彌が、「空中元彌チョップ」という必殺技を披露しました。西村氏が違和感を持っているのが、この形のプロレスだと思います。
 こうしたプロレスの流れを流れ図で書いてみると、以下のようになります。

■プロレス前史=レスリング(競技性:高、演技性:無)
・プロレスはヨーロッパ発祥であるが、相撲やシルム(韓国)、サンボ(ロシア)など、アジアにも似たスポーツがたくさんある。
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■プロモートレスリング(競技性:小、演技性:高)
・米国で生まれる。プロモート的なプロレス。
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■「受けの美学」プロレス(競技性:中〜高、演技性:小)
・この時代のプロレスが、本質的だと多くの人が思っている。日本に輸入された当初から、相撲文化などから競技性は米国と比較して高かった。
↓↓
■UWF(競技性:高、演技性:無)
・プロレスからショー性をさらに取り除く。しかし、「プロレスらしくない」という声もある。
■ハッスル(競技性:小〜中、演技性:高)
・見ていてとても面白い

 …ということを、プロレスを知らないのに書いてみました。おそらく間違っていると思います。プロレスに関する論文は、マニアかプロレス関係者でないとかけないと思います。