慶應通信! r.saitoの研究室

慶應義塾大学通信教育課程のブログです。皆さんの卒業を応援します。

教科教育法英語1(1)

 英語は、音声から勉強を始めるといいらしいですね。勝間和代さんという有名な方が、そうおっしゃってました。日本語は視覚的、英語は聴覚的な言語である、と。

「音声学的教授法を唱えた学者を列挙し、箇条書きにまとめるとともに、パーマー、クラッシェン、リトルウッドの教授法を論述しなさい」

はじめに
このレポートは音声学的教授法について論じることを目的としたものである。そのために、まず第1章では音声学的教育法を唱えた学者5人を列挙し、彼らの理論を箇条書きにまとめる。続いて第2章ではパーマー(Harold E. Palmer)、クラッシェン(Stephen T. Krashen)、リトルウッド(W. Littlewood)の教授法について概述したい。

第1章 音声学的教授法
1.ヴィルヘルム・フィーエトル(Wilhelm Vietor)
・自国語でものを考えず、そして翻訳を頼らない
・発音・連語・構文の模倣する
・語彙は脈絡のある文からなるテキストを使用し、会話によって習得する

2.ポール・パシー(Paul Passy)
・音声学的教授法を行うに伴い、生理学的図解を用いる
・発音を重視し、生きた言語として外国語を教授する

3.オットー・イェスペルセン(Otto Jespersen)
・初学者に対しては発音記号から教えていく
・あまり早くから文法の規則を教えない
・文を読む際に文法事項に注意させ、文法事項は生徒に帰納させる
・言語は意味の明快な伝達・表現で学ぶ
・教材・読本は、平易で脈絡のあり、興味をひくものを選ぶ
・教材・読本は易から難へと漸次的に進むように工夫する

4.岡倉由三郎
・読書力の養成を中心にしつつも、正しい発音の教育を重視する
・翻訳によらない直読直解、文法の帰納的学習、文法の帰納的学習、口頭英作文の学習を重視する

5.チャールズ・フリーズ(Charles C. Fries)
・限定された語彙の範囲で音韻組織と文構造組織を、無意識に聞き取り反射的に発話できる習慣を身に付けるオーラル・アプローチ(Oral approach)による学習の提唱

第2章 パーマー、クラッシェン、リトルウッドの教授法
 続いてパーマー、クラッシェン、リトルウッドの教授法について順に説明を行いたい。
1.パーマーの教授法
 パーマーは、人間の言語習得には生得的な面と習慣形成的面があることを認め、それをどう活用するかについて具体的な方法を提案した。さらに、言語をspeechとcodeの二つに分け、軽視されがちなspeechを大きく取り上げた。The Principle of Language Studyでは、学習に複数の段階を設け、各段階が次への準備となるように、無理のない段階を経て、既知より未知へと進む学習法Gradation(漸次進行)を提案している。そこでは(a)目よりも耳を重視し、(b)発話や記述といった「再生」よりも、聞いたり読んだりする「受容」を先に行い、(c)読むよりも前に口頭で真似て反唱し、(d)ずっと前のものよりも直前に受容したものの再生に勤め、(e)個人作業よりも一斉作業を行い、(f)自由作業よりも先に練習の作業に徹するべきであると説いた。こうした彼の教授法は言語心理学に基づいたものである。その上で、聞く・話す・読む・書くという4つの技能の間でバランスを保ちながら指導を行うべきであるとしている(前川 1999:20)。

2.クラッシェンの教授法
 スティーブ・T・クラッシェンはナチュラル・アプローチに基づく学習法を提示した言語学者である。ナチュラル・アプローチとは、コミュニケーション技能を身に付けることを目標としている。この学習法では、発話は理解の上にあり、その発話は自然に出てくることを目的としている。このナチュラル・アプローチの身に付け方について、クラッシェンは以下の五つの仮説を唱えている。
 一つ目は「習得−学習仮説」である。これは、成人の第二言語の能力を伸ばす2つあり、それらは明確に区別されるという仮説である。これには、「言語習得による方法」と「言語の学習」による方法がある。前者は実際の伝達のために言語を使って習得する方法であり、この場合の学習は無意識的なものである。後者は意識的な学習である。学習とは規則の顕在的知識であって、規則を意識し、規則について述べることができるということを意味する。
二つ目は「自然順序仮説」である。これは、文法構造が予測可能な順序で習得されるという仮説である。三つ目の「モニター仮説」は意識的な学習は、成人の第二言語の運用面では、極めて限られた機能しか果たさないというものである。四つ目の仮説は「インプット仮説」である。これは、現在の習得能力レベルより少しレベルの高い内容を理解することで、言語がより習得されるということを意味する。五つ目は「情意フィルター仮説」である。情意フィルターとは、習得を疎外する心理的障害を意味する。不安感によって情意フィルターが生まれるが、教師はそれを削ぎ、生徒にインプットを受け入れやすくするよう工夫が必要とされる(石川 1999:78)。こうした仮説をもとに、クラッシェンは英語指導を行った。

3.リトルウッドの教授法
 最後にW.リトルウッドの教授法について説明を行いたい。リトルウッドは自らの理論において、英語でのコミュニケーションが行えるようになるためには言語能力に加えて、言語の機能的意味を理解する能力と社会的意味を理解する能力が必要であると説く。
 小林道子によるとリトルウッドは、そうした能力を身に付けるために、教室での活動を大きく以下の二つに分けている。一つ目は「前段階的コミュニケーション活動」である。学習者は反復練習や質疑応答練習によって言語の構造的特徴を習得する。そしてこれらの構造に関する訓練を擬似コミュニケーション活動によって身に付ける。二つ目は「コミュニケーション的活動」である。コミュニケーション的活動には、利用できるどんな手段を用いてでも最善を尽くしてコミュニケーションを行い、課題を達成する「機能的コミュニケーション活動」と、ホテルや食事の際などの特定の状況や人間関係に関し、社会的に適切に会話を行う「社会的相互活動」がある。こうした二つの活動によって、リトルウッドはコミュニケーション能力の定着を図った(小林 1999:68-9)。

■ 参考文献
高梨庸雄・高橋正夫編『新・英語教育学概論』金星堂(2007)
前川哲郎編著『教科教育法 英語』佛教大学(1999)