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教科教育法英語1(2)

続きます。この科目は4単位なので、二つレポートを書かなくてはなりません。科目試験は1科目だけですが。

「非限定文句の用例を用いた分詞構文導入や綴字と発音の間の基本法則の指導法、第一次言語運用と第二次言語運用の指導法をまとめなさい」

はじめに
 このレポートは、1.非限定文句の用例を用いた分詞構文導入に関しての指導法、2.綴字と発音の間の基本法則の指導法、3.第一次言語運用と第二次言語運用の指導法についてまとめたものである。これまで、これらに関していかなる指導法が提唱されてきたのかということについて、以下で記述していきたい。

第1章 非限定文句の用例を用いた分詞構文導入に関しての指導法
 まず分詞構文の導入に関して、ここではヘンリー・スウィート(Henry Sweet)の指導法について記述したい。
 分詞構文とは、否定形文句の一種の分詞文句で、文の主語を先行詞とした非限定の挿入的文句である。スウィートのA New English Grammar(1891-8:?,123)によると、非限定分詞句と限定分詞句の違いは以下のとおりである。
非限定文句:She, dying, gave it me.
限定文句:Here are my letters announcing my intention to start.        (前川 1999:132)
この二つを比較すると、後者は分詞の前に読点も音調の変化もないのに対して、前者は分詞の前後に読点があり、休止や音調の変化がある。以上の例を挙げて説明し、
Seeing a crowd, I stopped.    (前川 1999:132)
という分詞文句は、When I saw…ともBecause I saw…とも解せると説く。そうすることによって、非限定分詞文句の持つ「含み」の柔軟性を示すことができる。
 分詞構文を教える場合にも、まず主語を先行詞とした非限定の挿入分詞句の例文を挙げる。
(1)Mrs. Sunbury, disapproving of Betty’s make-up and other apparel, took an instant dislike to her.
(2)The rest, having no breakfast, were to pretend not to be hungry.        (前川 1999:132-3)
そして(1)ではdisapproving=because she disapproved、(2)ではhaving=though they had、と、それぞれ非限定の定型文句とその「含み」を表す副詞文句にパラフレイズして説明する。その上で、定型文句とは異なり分詞文句は、上の3例のような文中位だけではなく、文頭位や文末位にも置くことができると彼は説明する。そうすることで、スウィートは分詞構文の本質を無理なく説明できると考えた。

第2章 綴字と発音の間の基本法則の指導法
 次に綴字と発音の間の基本法則をいかに教えるべきかについて論じたい。英語の発音と綴字の関係はやや不規則である。しかし、それでも発音と綴字との間には一定の法則が存在しており、それを押さえると、正確な発音を知るのも、綴りを覚えたりするのが、より容易になる。初学者に対して発音と綴字の関係を教えることから始める語学教授法をフォニックスと言うが、この場合単語の「名前」と「音」を理解させ、その法則性を帰納的に覚えさせることが目標とされる。ここでは手順として(1)導入前段階、(2)導入段階、(3)導入後段階の3つに分けて指導法を考察したい。
 まず、(1)導入前段階では、音声活動によって口と耳を鍛え、単語と音を理解する能力を身に付ける。例えば、綴り字の特徴として、
(a)母音字の「長い」発音は、その文字の名前と同じである。(例:name、pine)
(b)子音で終わる1音節の語の母音は「短い」発音である。(例:cut、cat)
などがあるが、そうした単語に関して「聞く」「読む」「書く」練習をする。
 続いて(2)の導入段階において、そうした単語の法則性を生徒に気付かせるために、ルール・カードや音声テープなどを利用しながら、法則性を説明する。発音と綴字の間にある法則として、他に
(c)語尾のeは発音しない
(d)1音節の語において、「子音字+e」の前の母音は長い。
などが存在するが、そうした法則を表にすると同時に、その例となる単語を付す。
 最後に(3)導入後段階では、こうした法則を覚えると共に、表に示された例以外の単語を音読や黙読、精読によって覚え、表現力を豊かにしていく。

第3章 第一次言語運用と第二次言語運用の指導法
 最後に、第一次言語運用と第二次言語運用について、ここで日本の英語教育に多大な貢献をしたハロルド・E・パーマー(Harold E. Palmer)の指導法を記述したい。ここでの「言語運用」とは、ソシュールにおける理論の「ラング」と「パロール」のうち、「ラング」にあたる。前者は言語体系を使って思想感情を表現したり、意思を伝達したりする行為である。後者は、語彙、文法等言語習慣の一切を含む知識としての言語である。パーマーはその言語運用(ラング)を更に二つに分ける。一つ目が音声言語による「第1次言語運用」、二つ目が文字言語による「第2次言語運用」である。これに「聞く」「話す」「読む」「書く」という4つの技能を当てはめた場合、「聞く」「話す」が第1次言語運用、「読む」「書く」が第2次言語運用となる。以下で、これらの技能を修得するための指導法を箇条書きにまとめたい。
 まず、第一次言語運用の習得法として、パーマーは5種の練習と2種の訓練を挙げている。
(1)耳の訓練の練習、(2)発音練習、(3)反復練習、(4)再生の練習、(5)置き換え練習、(6)命令による訓練、(7)定型会話による訓練、である。
 前川哲郎によるとパーマーは耳の訓練は聴覚による観察を助け、発音練習は聴覚による観察と口による模倣を助け、反復練習は聴覚による観察と口による模倣と模倣したことを無意識に淀みなく言えるようにすることを助けると説明している(前川 1999:23)。
 次に第二次言語運用の教授法について、パーマーは、第二次言語運用のみに関わる3種の練習と、第一次言語運用とも関わる6つの練習を挙げている。前者は
(1)目の訓練の練習、(2)文字書き練習、(3)書き換え練習である。後者は(4)無意味な英語または知らない英語を読む練習、(5)無意味な英語または知らない英語を書き取る練習、(6)音読、(7)黙読、(8)普通の書き取り、すなわち教師が音読して生徒が書き取る練習、(9)自動書き取り、すなわち生徒が自分で黙読して書き取る練習である。パーマーは、目の訓練は視覚による観察を助け、文字書き練習は文字書き模倣を助けると考える。そして書き換え練習は視覚による観察と文字書き模倣を助け、無意味な英語を読む練習や書き取る練習などは、聴覚と視覚(書き言葉)を結びつける効果があるとしている(前川 1999:25)。

参考文献
前川哲郎「第1章 パーマーの教授法とパラフレイズ」、前川哲郎編『教科教育法英語』(1999)佛教大学
同「第9章 文法指導と発音と綴字の関係」同上
伊東弥香「第10章 文字指導」、JACET教育問題研究会編『新英語科教育の基礎と実戦』(2005)三修社