慶應通信! r.saitoの研究室

慶應義塾大学通信教育課程のブログです。皆さんの卒業を応援します。

文章の膨らませ方(1)

 私は入学したときから、卒業への道筋が見えていました。途中で躓きかけたことがありましたが、仕事をしつつも3年で卒業することができました。入学後1年間の間にゆとりがあれば、2.5年も不可能ではなかったと思います。しかし、中には卒業までの道のりが見えないという方が多くいらっしゃると思います。そんなときは、目の前のレポート一つに集中してください。何か一つでも合格できたレポートがあるならば、ひとまず安心してOKだと思います。次のレポートに取り掛かってください。何度か不合格で返ってきますが、めげないでください。返却を待っている間は、別の課題を解きましょう。そうしているうちに、卒論登録ができるようになります。
 ところで、今日は文章の膨らませ方について書きたいと思います。普通課程で、レポートに慣れていない方は、4000字を書くのが苦痛だと思います。「2000字でもやっとなのに、4000字はきつい」とか思っていらっしゃると思います。そんなときの文の膨らまし方について、書いていきます。
 文章が4000字に届かないのにはどのような理由があるのかといいますと、それは知識が足りていないときです。もしくは、知識があっても、それをレポートに反映させていない、というのが理由であると考えられます。レポートが4000字に届いていないときは、知識不足だと考えて、新たな参考文献に手を伸ばすことをおすすめします。
 文章を膨らませるには、知識と、それを詳しく説明する能力が必要です。下に例文を勝手に考えてみました。

 私は小学生のときK布選手と出会ったことでプロ野球選手を目指そうとしたことがあります。しかし、夏の甲子園でC高校に破れ、その夢を諦めざるを得なかったという過去を持っている。

 この文章を膨らましてみます。

 今日は、私と野球について語ろうと思います。私は小学生のとき、ある一人の選手との出会いを切っ掛けにプロ野球選手になろうと思ったことがあります。最終的には夏の地方大会で他校に破れ、挫折してしまったのですが、私の人生にとって、野球は今でも欠かせないものとなっています。
 私は和歌山県の北部にあるK南市というところに生まれました。和歌山県は野球の強い県の一つとして知られており、K南市の北にはC弁和歌山高校が、そして南にはM島高校という、2つの強豪校にはさまれたところに位置しています。少年野球をやっている生徒が他地域と比較して多く、日曜日は小学校のグラウンドが子供たちの練習場として使われました。また、何人かの現役を引退したプロ野球選手がたまにやってくることがあり、1日特別コーチとして、私たちの練習を見に来てくれたことがありました。
 その中の一人にK布選手がいます。K布選手は某タイガースのB−ス選手、O田監督とともに黄金期を支えた選手として知られ、今では多くのバラエティ番組に出演しています。私が小学生の時、彼は引退していましたが、それでも名前の知らない者がいないほど有名でした。
 彼が和歌山に来る前、このような噂が立っていました。「どうやらサインを書いてくれるらしいぞ」という噂です。当時、阪神はK山選手やS庄選手が活躍していて、あまりK布選手は目だっていませんでしたが、それでも有名な選手なのでどきどきしていました。
 練習日当日がやってきました。練習には他校の小学生たちも多く参加していました。本当にK布選手はやってきました。軽い挨拶の後、K布選手は始終穏やかな顔で少年たちのバッティングを指導し、そして去っていきました。あまり会話することができませんでしたが、とても新鮮な出来事だったので、そのことは今でも覚えています。
 練習後、コーチは私たちを集め、一人一人に一枚の紙を配りました。わら半紙です。そのわら半紙にはK布選手のサインが描かれていました。練習時はサインのことなどすっかり忘れましたが、わら半紙を見てそのことを思い出しました。そのとき、私の頭の中に微妙な感覚が生まれました。確かにK布選手はスケジュールの合間をぬって練習を見に来てくれた。それは非常にありがたいことだ。しかし、サインがコピーされたわら半紙を見たとき、「もし私がプロ野球選手になったときは、きちんとサイン色紙にサインを書いて、子供たちに渡せる選手になりたい」と思いました。
 その後、私は人一倍練習に励みました。中学、高校と練習を続けました。高校は進学校だったので、それほど野球部は強くありませんでした。そのため、私は1年の夏でレギュラーを獲得することができました。
 夏の県大会、私は5番ショートとして出場しました。1回戦は最弱校と対戦したため、勝利することができましたが、2回戦目で強豪校の一つT高校と対戦し、敗れました。T高校も私と同じ進学校ですが、当時T高校野球部は優勝候補であるC高校と張り合うほどの勢いを持っていました。T高校の打線は非常に協力で、私のチームのピッチャーが5回目につかまり6失点と差を広げられ、最後までその差を縮めることができず、私たちは敗れました。
 その後T高校は優勝候補のC高校に敗れたのですが、その放送を見ていて、私は彼らとの力の差をひしひしと感じ、挫折するにいたりました。今でも高校野球をみると、あの夏の日を思い出します。

 これは、私の友人の経験ですが、それを文章にしたものが↑です。では、以下で文章の膨らまし方のポイントを書いていきます。
1.知らない人にもわかりやすく説明することを心がける
 これはどういうことか、といいますと、「みんなが知っている」と思っているようなことでも書いてみることです。例えば、K布選手に関する記述。

 その中の一人にK布選手がいます。K布選手は某タイガースのB−ス選手、O田監督とともに黄金期を支えた選手として知られ、今では多くのバラエティ番組に出演しています。私が小学生の時、彼は引退していましたが、それでも名前の知らない者がいないほど有名でした。

 関西では、誰でも知っていることです。しかし、関西以外で、このことを知っている人はいるでしょうか。おそらく、関西と比較すると少ないと思います。「みんなが知っている」と思うことでも、実は知らない人が多かったりします。私は川上麻衣子さんのことは知りませんでした。『牡丹と薔薇』に出てた方と知って、「あの人か!」と思いました。ジェネレーションギャップは大きいです。逆も同じです。40代の方は大島優子さんのことはご存知ないでしょう。常識です。
 これと同様に、レポートを書く際に、考察の対象とする人物の事を詳しく書く必要があると私は思っています。例えばこの前『文学(1)』『文学(2)』という記事を書きましたが、この科目では、がどのようなものかについて、その物語を知らない人が分かるように説明する必要があると思います。文学で「魯迅辛亥革命を批判したが、それは『阿Q正伝』において、どのような形であらわれているか」というテーマで書こうとした場合、いきなり『阿Q正伝』に現れている辛亥革命への批判となる言葉を抜き出そうとしてはいけません。「魯迅」とは一体どのような人物か、「辛亥革命」とは何か、「『阿Q正伝』とはどのような物語か」ということを説明した上で、書きたいこと、つまり『阿Q正伝』に現れている辛亥革命への批判を明らかにした方が、分かりやすいし、多くの文字数を書くことができます。
 ここでは特に、人物のバックグラウンド(どのような思想を持つ人物か)に関して書いておくことは重要です。経済学においてもいろんな人がいます。例えばイギリス人のリカードと、ドイツ人のリストは、相反する存在です。リカード産業革命で繁栄を極めた時期の人物で、貿易をどんどん進めようと唱えました。逆にリストは、産業革命の立ち遅れたドイツの出身で、保護貿易が大切だと訴えました。
 また、国だけではなく時代によっても主張は異なります。ケインズリカードと同じイギリスの生まれですが、ケインズ世界恐慌後の人物であるため、資本主義の積極化を唱えたリカードとは主張が大きく異なります。
 また私は「K南市」に関しても、野球が盛んな地域であることを、そこそこ詳しく書きました。関係ないですがK南市は台所、風呂場周りの生活用品のシェアが高い地域です。

 私は和歌山県の北部にあるK南市というところに生まれました。和歌山県は野球の強い県の一つとして知られており、K南市の北にはC弁和歌山高校が、そして南にはM島高校という、2つの強豪校にはさまれたところに位置しています。少年野球をやっている生徒が他地域と比較して多く、日曜日は小学校のグラウンドが子供たちの練習場として使われました。また、何人かの現役を引退したプロ野球選手がたまにやってくることがあり、1日特別コーチとして、私たちの練習を見に来てくれたことがありました。



2.「大きいこと」から「細かいこと」の順で書いていく
 上のK南市の記述なんですが、「わかりやすいが、大まかなこと(曖昧なこと)」から「細かいが、具体的なこと」の順で書いています。

私は和歌山県の北部にあるK南市というところに生まれました。

 この一文で、大体どの辺で生まれたのかが明らかになりました。でも、K南市ってどんなところだろう?

和歌山県は野球の強い県の一つとして知られており、K南市の北にはC弁和歌山高校が、そして南にはM島高校という、2つの強豪校にはさまれたところに位置しています。

 少し踏み込んだ地理的説明です。高校野球が盛んな地域であることがわかりました。

少年野球をやっている生徒が他地域と比較して多く、日曜日は小学校のグラウンドが子供たちの練習場として使われました。また、何人かの現役を引退したプロ野球選手がたまにやってくることがあり、1日特別コーチとして、私たちの練習を見に来てくれたことがありました。

 さらに踏み込んだ記述です。子供たちの様子が明らかになりました。このように順を踏んで説明していくことで、文章に深みを生み出すことができるんじゃないかと思います。
 この手法は、いろんなところで使えます。つづく。